もう一度あの場所で 君の隣にいよう
約束




約束




彼はいつでも、大丈夫、と言った。
ふと視線が重なったときや、唇を合わせた後や、ストライクに向かって走る背中ごしに。
その低く落ち着いた声で繰り返されると、泣き出したくなった。
自分がひどく無力な生き物になったような、丁寧に扱われる感覚。
悲しいのか、安心するのか、よくわからない。
その、なんの根拠もない大丈夫、が聞きたくて、わざと黙って見つめたりした。
我ながら子どもじみた振る舞いだと呆れたが、それを難なく受け入れてくれる雰囲気を、彼は持っている。
わざと困らせて甘えても許されるような、雰囲気。
そういうものを自然に与えられる人間が、どれだけ少ないか私は知っている。
生きるか死ぬかの一線がかかった戦地。
人の、あるいは自分の生命がかかった場所に身をおくことの厳しさ。
何かが磨耗していく。
他者への気遣い。思いやり。手を差し伸べる余裕。
それらは所詮、日常に漬かって安穏とした日々を送る人間にだけ許される幸福な言葉の羅列だ。
傷つけ、恐怖を強要し、鼓動する温かさを奪う。
それが求められる場所で、いったい、どうしたらそんな夢みたいな言葉を唱えられるだろう。
平和のために、と希望をかかげていても、命を奪っているという事実は変らない。
正義の名のもとでも、悪という名のもとでも、同じ行為を繰り返す矛盾。

いつか少女が言っていた。

なんのために戦うのですか。
なにを相手に戦っているのですか。

私はそれを、このアークのなかで知った。
キラくんと共に歩いてきたから。
カガリさんを支えてきたから。
ナタルとぶつかってきたから。
ザラを受け入れたから。
彼と、出会えたから。

私はいったい、なんのためにここまで夢中で走ってきたのだろう。

目の前で消え去ろうとしているのは誰。

溶けながら。
燃えながら。
消えていく。

「っ艦長・・・!ストライクです!フラガ少佐がっ・・・」

目の前で消え去ろうとしているのは誰。

彼の機体。
彼の身体。
彼のやわらかい眼差し。

耳鳴りがする。
誰かが何かを言っている。
目の前で爆発していく。
消えていく。
聞こえない。
なにも聞こえない。
もっとはっきり言って。
それしか聞こえなくなるくらい、もっと。

俺は死なない。
ほんとうに?
絶対に生きて帰ってくるさ。
ほんとうに?



約束だ。









2007/10/8

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